「通俗心理学(ポピュラー心理学)」の登場

「通俗心理学」とは何か知っていますか?

心理学の考え方をわかりやすく伝える際によく用いられる言葉として、通俗心理学(英:popular psychology、別称:大衆向け心理学)というものがあります。これは決して学問を指しているのではなく、表現の一種です。

学術/専門的な心理学には、あらゆる分野と同様に、独自の用語や出版物があります。心理学を大衆化する目的は、よりアクセスしやすく、魅力的で使いやすい情報として世の中に届けることです。ここでは、心理学を大衆化する目的をもったジャンルを3つご紹介します。

第一に、科学的な心理学の最近の進歩について、一般の人々を啓蒙することを主眼とする書籍やメディアです。このような書籍やメディアは、学者や科学ジャーナリストによって書かれることがほとんどです。

これらの作品は、他のタイプの科学コミュニケーションと同様に、とりわけ心、脳、行動に焦点を当てています。ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』(2011年)は、人間の認知の2つの基本モードについて、ジョセフ・ルドゥーの『The Emotional Brain』(1996年)は、感情の生理学について、ダン・アリエリーの『予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』(2008年)は、選択バイアスについて書かれており、これらはすべて、同ジャンルの古典的著作とみなされています。

第二のジャンルは、より実践的なものです。このテーマに関心を持つ一般の人々に向けて技術的な問題を解説するのではなく、日常生活の中で実践的な助けを必要とする人々にアドバイスを提供します。

このタイプの作品は、学者ではなく心理学者が執筆することが多く、またこのテーマに関する研究とは別ものであることが多いです。

これは通俗心理学のサブジャンルとなっており、より良い指導者、恋人、配偶者、親になるための書籍が含まれます。こうした書籍は、より幸せに、より軽く、より健康に、より裕福に、より賢く、よりセクシーに、より生産的になりたいと願う人々にアピールします。

そして最後に、第三のジャンルは、精神的な問題に焦点を当てたものです。このジャンルは、第二のジャンルと同じく、実践的なアドバイスを提供しますが、通常の機能を強化するのではなく、不幸や機能不全を軽減することを目的としています。

第二のジャンルが生身のコーチなしでのカウンセリングであるのに対して、この第三のジャンルは自己管理型の治療を行うタイプです。このタイプの読者は、うつ病や不安症などの問題を克服したり、上手く付き合ったりしていくための手助けを求めています。

実際のところ、「心理学」と「自助」の境は曖昧です。

通俗心理学のすべてが自己啓発ではありませんし、すべての自己啓発書が心理学に基づいていたり、心理学者によって書かれていたりするわけではないのです。

『人を動かす』(1936年)の著者であるデール・カーネギー氏は、セールスマン、俳優、パブリックスピーキングの教師で、心理学の経歴とは無縁でした。

Chicken Soup for the Soul Company社は、専門家や知識人ではなく、一般の人々の感動的な物語を紹介しています(同社は現在、ペットフードも販売しています)。

心理学の代わりに、民間の知恵、信仰に基づく救済策、または12段階の概念を薦める自己啓発書もあります。キリスト教の聖職者(Norman Vincent Peale『The Power of Positive Thinking』1952年)、宗教教育者(スティーブン・コヴィー『『7つの習慣 成功には原則があった!』1989年)、精神科医(M.Scott Peck『The Road Less Travelled』1978年)たちは、最も影響力のある作家の一人となっています。

通俗心理学を嘲笑し、批判するのは簡単です。単純化されすぎた主張、複雑な問題に対する単純な答え、専門用語が散りばめられた主張、容赦のない実証主義など、特に自己啓発系の心理学を扱う著者は、しばしば読者を苛立たせます。

通俗心理学を否定するような説得力のある理由はいくつかあります。博士号を取得した専門家の著作物を装い、「科学」の魅力で読者を魅了しながらも、実際には、科学的根拠から大きく逸脱していることもあるのです。